荒木哲郎(監督)
大河内一楼(脚本)
畠中祐(生駒役)
村山(司会/アニプレックス宣伝)
テキスト=清水大輔(CUT)
- ――CUTで荒木監督の2回目のインタビューをさせてもらったのが、最終回上映イベントの翌日でした。当日会場にいらっしゃってた方ってどれくらいいますか?
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- (会場挙手)
- 荒木「すごい」
- 大河内「素晴らしい、精鋭たちが」
- ――では、荒木さんがどんな恰好をしていたか、覚えている方はいます?
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- 客席「無名ちゃん!」
- ――そう、無名ちゃん。その24時間後くらいにWIT STUDIOで取材をさせてもらったんですけど、荒木さんのお召物は、まだ無名ちゃんでした。
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- (会場笑)
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荒木「そうでしたか(笑)。泊まってたのかもね」
- ――まずはおふたりに伺います。『甲鉄城のカバネリ』はご自身にとってどんな作品だったと総括してますか?
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荒木「やっぱり、自分自身をすごく刻んだ作品になったと思います。かつ、エンターテインメントをしようという気持ちがいつもすごくあって。内面を掘るだけ、エンターテインメントをするだけ、どっちか片方だけじゃダメだと思ってるんですね。それを、両方やるっていう。それは人生の目標でもあるんですけど、今までで一番やれたと思ってる作品です。やってみたら『もっとできたな』『こうしてもよかったな』って思うこともたくさんあったけど、そういう意味でも思い出深いし、『うまくいったな』っていう意識が強い作品です」
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大河内「荒木さんとやった作品、ということが一番大きくて。荒木さんが思ってることをどれだけ再現できたのかなあっていうことは、今はまだちょっとわからないけど、そのうちいっぱい考えるんだろうなっていう。そんな作品ですね」
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- ――『カバネリ』は結果すごく愛される作品になったわけですが、おふたりの中で「こんなふうに愛してくれるんだ?」と感じた予想外のリアクション、嬉しい出来事について教えていただけますか?
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荒木「今日も女性の方がたくさんいらっしゃってくれてて、めちゃ嬉しいです――いや、男性が嬉しくないって言ってるわけじゃないけど(笑)」
- (会場笑)
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荒木「そもそも、男性ウケする作品だと思っていて。でもやっていく中で、思った以上に身の回りの女性スタッフとかも作品を好きになってやってくれてたし――心に描くターゲットは常に、中高生の頃の俺自身なんですけど、それでもみんなが好きになってくれて、嬉しいな、と思ってます」
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大河内「こうしてお客さんをちゃんと見るのは、今日が初めてなんですよ。若い人もいるし、女性もいるし、いろんな人がいて、ほんとに嬉しいなあ、と思います。いろんな人にとって、ちゃんとエンターテインメントになったんだなあっていう。それが嬉しいですね」
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- ――『カバネリ』は、観ていて「どれだけ作るのが大変なんだ」と思うくらい、手間と時間がかけられていることがわかるし、実際クオリティが高い作品でしたけど、実はこんな苦労があった、でもこうして乗り越えたよ、的なエピソードを教えてほしいんですけども。
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荒木「でもね、思ったような最悪の地獄にはならなかったかな、むしろ。プロデューサーの岡田さんや制作陣、アニメーターの皆さんがすごく上手に動いてくれたので、全然ひどくならなかった――というのが俺の印象だけど、スタッフのみんなはそうは言わないだろうな(笑)」
- (会場笑)
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荒木「いや、ひどかったよね(笑)。ごめん、ほんと。それは主に俺がダメで、俺以外はみんな頑張ってくれて」
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大河内「でもわりと、ピンチだなって思ったときもいろんな人が駆けつけてくれて、なんとかなっていて。いろんな人徳が集まってるなって思いましたね」
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- ――CUTで2回インタビューさせてもらって、『カバネリ』という作品、そして主人公の生駒は荒木哲郎という人そのものだという仮説を立ててお話を聞いたんですけど、荒木さんは2回とも「俺はロクでもない、見下げ果てた男である」と言っていて。でも実際、最終回イベントの壇上にいる荒木さんを見たときに、「この人めっちゃカッコいいな」って思ったんですよ。これは大河内さんに聞きたいんですけど、『カバネリ』を作っていたときの荒木哲郎という人は、どんな人物でしたか。
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大河内「全力の人、ですね。妥協がないし、自分にも厳しいし、求めてるものもすごく高いところにあると思うし。これはガッチリやりたい、これは譲りたくないっていうところがはっきりしてるから、監督としてはめちゃくちゃやりやすかったです」
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- ――逆に、荒木さんが「大河内さんに救われたな」って思ったのはどんな瞬間ですか?
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荒木「俺は、やりたいことははっきりしてるかもしれないけど、『先週言ったことと今週言ってることが真逆になってる』っていうのは、よくあることなんですよ。引き出しが多い人じゃないと対応できない状況があって、大河内さんはその都度『では、こっちですか?』って対応してくれて、ほんとに助かりました。結局自分ひとりでは何も作れないし、たくさんの引き出しを開けてくれる人がいないと俺はダメだし。すごく助けられました」
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大河内「いやいや。隣で褒められるのって、なんかこそばゆいですね(笑)」
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- ――取材のとき「カバネリロス」っていう言葉が出てましたけど、その後ロスとはどう付き合ってますか?
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荒木「まあ、こうして今も『カバネリ』Tシャツを着ていて――これで1週間回せるくらいもらってるんだけど、『わーい』って言って、順番に着てます(笑)。まずはこれを着ることでロスを解消していて、今も細かい作業をいろいろやってるので、部分的に解消しつつ」
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- ――未だ、ロスの渦中であると。
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荒木「うん、そうです。インタビューのときにも言ったけど、ヤツらを向こうの世界に置いてきちゃったから、もう一回連絡取らないと、と思っていて。こう、彼らの電話番号を探してる(笑)」
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- ――(笑)絵コンテの話をしたときに、「仕事のツメは刻苦である」という言葉があって、それがすごく印象に残ってるんですけど、改めて教えてもらえますか?
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荒木「富野由悠季さんにもらった言葉で、大河内さんは知ってるけど、俺の机に筆で書かれたそのお手紙が飾ってあるんですよ。『Gのレコンギスタ』の絵コンテをやったときに、何百枚と付箋をつけたダメ出しのコンテの表紙に載ってた言葉なんですね。言われてることは大体けなしなんだけど(笑)、軽めの褒めも入ったりして、最後に、『仕事のツメは刻苦です』って書いてあって。要するに、絵コンテを仕上げるっていうのはとにかく苦しいもので、いつまでやっても直し続けないといけない、いつまでやっても答えを探さないといけない、そういう仕事なんですよ。で、今回『刻苦いたしました』っていう(笑)。そういう話をしましたよね」
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- ――キャラクターを描くときに、「こいつこんなこと言わないだろう」「こんな行動しないだろう」という違和感を少しでも感じたら、すべてチェックして、直していくと。結果、キャラクター造型は『カバネリ』の魅力として欠かせない要素になったわけですが、おふたりはキャラクター造型においてどこに手応えを感じてますか?
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荒木「自分がコンテをチェックするときに何をやってたかっていうと、『みんなにとって好ましいヤツになっているか』っていう、その1点なんですよ。アニメには宿命的にそういうことがあるんだけど、シナリオのときにいいと思っていたものでも、絵にしてみると、コンテにしてみると、好ましかったはずのものがそう見えない、という瞬間があるので、それを見逃さない。そう決めた瞬間に、見逃せないものが多くなるんですよね。5話で生駒がクレーン作戦を失敗するんですけど、シナリオの段階では作戦は成功してたんですよ。だけど、4話までコンテを作った段階で、『こいつに成功させちゃダメだな』って思って。チェック前の素上がりのコンテはシナリオ通りに書いてあるから、最初は成功しちゃってたんですけど、その関係シーンは全部書き換える。キャラクターを本気で管理するっていうのはそういうことです。ちょっとでもその違和感をキャッチしちゃったら、何日泊まり込んでもやるしかない。『俺がそうやってコンテを止めることで、のちのちどれだけの人が苦しむのか』って思っても、やらなくちゃいけない。そういうときに、『刻苦か!』って思ってたんですよね」
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大河内「(笑)生駒と無名っていうのは、典型的な嬉しいキャラクターというわけではないので、あのバランスの中でとにかく愛されてほしいなあ、と僕は思っていて。それは媚を売ってほしいということではないので、そこはわりとバランスが難しかったですね」
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- ――今出たふたりのキャラクターについてお話を聞いていきたいんですけど、まずは無名です。作品のアイコンであり、とにかくかわいいキャラクターですけど、無名をかわいくするにあたって、荒木さんはスタジオの方にどんなことをおっしゃってたんでしたっけ?
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荒木「あれですよね? あの話……言って(笑)」
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- ――(笑)恥ずかしいけど「もっとかわいくしろ!」って言い続けたっていう。
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荒木「あ、そっちか。そう、メイクアップとかも含めて、この子が一番の売り物だからどこまでもやらねば、と思ってたんだけど、今話そうと思ったのはその話よりも、あの、あれ、美しいものに蹴られ……蹴られたい、じゃないけど」
- (会場笑)
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- ――(笑)美しいものに蹴られたい、裁かれたい。そして、糺(ただ)されたい。
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荒木「そう。でもなんだろう、俺これ、CUTのインタビューで初めて言葉にしたけど、俺の中では言葉にするまでもないかもしれないな、と思うくらい当然のことだったのかもしれない。『普通、人はそれが好きっしょ』って思ってたから。『みんな美しいものに糺されたいでしょ、それは絶対に俺だけじゃない』って思ってて」
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- ――そうですね。確信を持って、美しいものに蹴られたい男性は世の中にたくさんいるはずだっていう話をされてました(笑)
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荒木「(笑)実際、作業をしていて3話目を作っている頃は、まわりの人に心配されたんですよ。『みんな、こんなに容赦なく蹴ってる無名ちゃんをキライにならないかな?』って。それは男性からも女性からも言われたけど、そのたびに『全然大丈夫!』って言って(笑)」
- (会場笑)
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荒木「なんなら、もっとやればよかったと思ってるし。ああいうのはもっと描きたかったですね」
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- ――実際に今後実現するかどうかは別として、『カバネリ』のキャラクターの「こいつのこんな部分を描いてみたいな」って思うこと、何かありますか?
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大河内「特にこの人! っていうのはないけど、みんなが大人になったところを描いてみたいな、とは思います」
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荒木「俺は無名が生駒をボコってるところかな(笑)。インタビューのときにキャラクター憑依系のコンテっていう話をしましたけど、シナリオをチェックして、お話を考えてるときには、俯瞰の視点、キャラクターを操る視点で、『こうすると悲しかろう、それはこうする動機につながるはずだから』っていう冷静な気持ちで配置するんですよ。で、絵コンテのときには、今度は逆側から入るんですね。思い切りキャラクターの気持ちになって、キャラを通して出来事を体験するモードになるんですけど、自分で意外だったのは、10話で逞生が死ぬっていうのは俺が言ってシナリオに書いてもらったんだけど、絵コンテを書く段階になって、『なんでこいつが死ななくてはならないんだ!』っていう気持ちになって(笑)」
- (会場笑)
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荒木「『そんなの、ありえないよ!』って思って。だから、絵コンテのときには完全に没入する、ダイブする。で、その前段階では、もうちょっと客観的に計算するっていうのが、バランスがよくて。今はそういう仕事のしかたになってますね」
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- ――なるほど。そしてやっぱり、生駒ですよね。おふたりが生駒を描いていて、ここが楽しいと思ったポイントを教えていただけますか。
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大河内「ネガティブとポジティブのバランスが取れているところが、すごくよかったですね。めちゃくちゃネガティブだったり、『そこまで?』っていうくらいポジティブだったり。その距離感が変なところは、やっていて面白かったです」
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荒木「生駒=俺っていう話をインタビューのときによく言ってくださってますけど、いつも真っ向から否定してると思うんですよ。むしろそうならないように、って気をつけていたくらいで。主人公にはある程度キャラクターとしての核が必要で、それはオリジナルのアニメ作品だと、監督にならざるをえないんですよね。それは俺が選んでやっているんじゃなくて、もうそういうものなんですけど、その上で、『キャラクターとして俺そのものにしない』ということこそ、一番考えたことでもあって。なぜなら、俺はロクでもない見下げ果てた野郎だから(笑)。そいつじゃダメだな、と思ってるから、『どうやったら俺という内面を持ちながら、みんなに愛されるキャラクターになるのかな』っていうところを考えていって。で、畠中さんという人に出会いまして、『この人の感じのいいところを移植すればイケる』と思ったし、生駒が無名にボコられるっていうのも、それもひとつ彼の好感度を上げる大事なところで(笑)。それも込みで、とてもうまくいったと思うので、みんなに感謝してます」
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- ――生駒=荒木哲郎論に関しては、合計3時間くらいお話をさせてもらった中で、最初荒木さんは「俺そのものではない」っていう話をしてたんですよ。で、最終回放送翌日のインタビューの終盤では、「結果、俺がどっぷり入った」っておっしゃっていて。
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荒木「ああ、そっかそっか」
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- ――セリフにしても、「こいつ、俺が言いそうなことばっかりしゃべるな。だって俺だもんな」みたいな。
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荒木「言いました、言いました。11話の『最初から何もしなければよかった』とかね。それは、ほんとによく思うんですよね。心が弱いときの俺です。主人公がくじける姿を描くとき、それが真に迫ったものにするためには、もう自分を掘るしかなかったっていうことで、『わかるぜ』って思いながら書かなくちゃいけないシーンだったんですけど、それにしても『俺みたいなこと言うな』って思いましたね――自分で書いたんですが(笑)」
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村山「では、生駒の話になったところで、今日は会場に来ていただいてるので、ここで登場いただこうかと思います! みなさん大きな拍手でお迎えください。生駒役・畠中祐さんです!」
- (会場拍手)
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畠中「黒血漿(※)うまいっすねー! けっこう、レッドブルがキますね」
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大河内「じゃあ、僕も黒血漿もうひとつ(笑)」
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畠中「さらに命を削るんですね(笑)」
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- ――(笑)畠中さんも加わったところでまず荒木さんと大河内さんに聞きたいんですけど、生駒を演じた畠中さんがどう見えていたのか、という話なんですが――。
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畠中「本人の目の前で(笑)」
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- ――(笑)本人の前で褒めてもらいましょう。畠中さん演じる生駒が魅力的な理由、いかがですか?
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大河内「僕はアフレコブースの外から見て楽しんでたんですけど、いろんなことに対するビビッドな反応だったり、きれいな勘違いとかが、ものすごく面白かったです。『今、生駒くんは笹の上に乗ってるの?』とか(笑)」
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畠中「(笑)ドラマCDのときですよね。七夕で、願いをかける笹があるじゃないですか。大きくて、7,8メートルみたいな。でも僕は、『これガンダムくらいですか?』って言って(笑)。『生駒は短冊を貼りつけたりするときに、この竹に上がっていって、上部で作業をやってるんですか?』っていう質問をして――そうですね、他のキャストさんには構ってもらえませんでした(笑)」
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荒木「流れとしては、甲鉄城の甲板で生駒が作業をしてるシーンだから、みんなは甲板の上、みんなのすぐ隣にいると思ってたんですよね。だけど畠中さんの声が妙に大きくて、遠いところからしゃべってるような声になってた。で、音響監督の三間さんが『お前、どこにいるんだ?』って(笑)」
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畠中「『上です!』『どこどこどこ?』みたいな、そういう会話があって。それで尺5分くらい取っちゃったから、けっこう大迷惑だったんですけど」
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大河内「三間さんとのやり取りが面白いんですよ。毎回、三間さんが『今どこにいるの?』『なんで走ってるの?』『走った先に何があると思ってるの?』って聞いたりして、そのやり取りがすごく面白くて。それが、すごく愛されてる感じがする。キュートなんですよね、間違い方も。それに対して一生懸命やっているし」
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畠中「いや、あれ、はたから見たら『なんかイジられてんな』みたいな感じですけど、三間さんはけっこう目がマジですからね(笑)」
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荒木「ははは」
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畠中「『お前ほんと何してるの?』『この読み込みは何、どういうこと?』って。で、『あ、えーっと、そうですね、この作品のポイントは……』『いや、そういう話してないから』みたいな。だから、一部厳しい現場でしたけど、いつも楽しく、いい緊張感を持ってやれてました」
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荒木「この、畠中さんがうろたえてるところがいいんですよ。そこは、本編の生駒にすごくフィードバックしたところです。『この人は、うろたえてるところがいいんだ』っていう。今もそうでしょ?」
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畠中「ははは。そうですね。皆さんとの距離が近いので、なかなかうろたえますね」
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- ――畠中さんは、ものすごい熱意を持って取り組んできた『カバネリ』の収録が終わったとき、どんなことを感じたんでしょうか。
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畠中「正直、声帯がどうなろうがこの作品に懸けて燃え尽きたかったんですけど、最終回の収録が終わったときに、『燃え尽きた!』って思う自分と、燃えカスだけどまだカタチはあるから、『もっと燃え尽きられたんじゃないか?』っていう気持ちもあって。なんか、自分の中でも消化しきれない気持ちがあったんですよね。だから、終わったことを認めたくなかったというか。放送が終わってやっと、というか、今になってようやく実感できるようになったというか。実感できるまでは、ずっと、もっともっとやりたいっていう思いで、終わったっていう気が全然しなかったです」
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- ――さっき「カバネリロス」の話題が出てましたけど、畠中さんもやっぱりロスってましたか?
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畠中「ロスですよ! こういうトークショーで気持ちを消化したり、気づいたらサントラの曲を聴いてたり、雑誌を読んでカバネリ載ってるかな? って探したりとか――なんか切ない行動をしてます(笑)。素直に言っちゃうと寂しくて、新しいことにもチャレンジしていかなくちゃいけないけど、やっぱりあの仲間たちにもう一度会いたいなっていう気持ちが、すごくありますね」
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- ――話を聞いていて、畠中さんはとにかく荒木さんのことを信頼して――というか大好きなんだな、と感じるんですけど、『カバネリ』特集が載ってるCUTが出た数日後に、畠中さんのえらいテンションのツイートを見かけたんですよ(笑)。
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畠中「(笑)そうですね。ありました、ありました」
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- ――せっかくなんで、その文面をご本人に読んでいただこうかな、と。
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- (会場笑)
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畠中「いや、これ、絶対酒飲んでましたよ!? え、ちょっと待ってこれ、マジでスベるかもしれないけど……じゃあ、いきますよ!?」
- ――お願いします!
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畠中「監督、ちょっと、心を無にしないで聞いてくださいよ(笑)」
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荒木「(笑)」
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畠中「『いやぁ、カバネリ特集、、、監督のインタビュー、、、監督!!感動しました!!いや!俺だってロクでもないですよ!!俺だって!!!こ、これは、、だからこんなおもろいのか、、、?!これはまさか!! YES!!荒木マジック!!フゥー!!!!』」
- (会場拍手)
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畠中「マジで、これは酔ってたよ~~! 絶対フォロワー数減ったもん、この荒木マジックで――『何、スベっとんねん、畠中ぁ!』みたいな」
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村山「今どきYES!!とか言うの高須クリニックくらいですからね」
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畠中「パクってごめんなさい。でも、そうですね、書いちゃいましたね」
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- ――ちなみに、「俺だってロクでもないですよ!!俺だって!!!こ、これは、、だからこんなおもろいのか、、、?!これはまさか!!」。これ、皆さん意味わかりますか?
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- (会場笑)
- ――僕はちょっと読み解けなかったので、畠中さん自身に解説していただこうかな、と(笑)。
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畠中「(笑)これは真剣な話になるんですけど、『カバネリ』では、弱い者が這いつくばって、這い上がっていく。やっぱりそこに魅力がある気がしていて。荒木監督も、自分のことをすごく『俺はこんなだから』とか言うじゃないですか。僕も『もっと胸張って生きなさい』とか怒られたりしたこともあったんですけど、そういう素直な部分があってもいいんじゃないかな、と思う部分はあるんですよ。そこから這い上がっていけばいいんだから。その姿はすごく滑稽に見えるかもしれないし、ある人にはカッコよく見えるかもしれないけど、だからこそ、生駒や監督についていきたいと思うのかもしれなくて。自分をさらけ出して、『俺はロクでもないけど、やってやるんだ』って言って、作品に血と骨を注ぎ込んでる。これは面白いわけがない――あ、面白くない、わけがない!」
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荒木「……」
-
畠中「違う違う違う、監督! 監督は全身全霊を賭けて作品を作ってくれているし、自分をありのままに表現する人だし、ほんとに、ついていきたい人だなって心から思ったんですよね」
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- ――なるほど。ツイッターの文面からは想像もつかない熱い言葉が飛び出しましたけど、全身全霊の信頼と愛情を浴びてみて、荒木さんはどうですか?
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荒木「ありがとう(笑)」
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畠中「いやいやいや! 聞いてました!?」
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荒木「面白いわけが、ない?(笑)」
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畠中「違う違う違う違う! 面白くない、わけがない! いや、監督、あとでちゃんと飲みましょう?(笑)」
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- ――(笑)さっきも話題に出た11話、男が輝く瞬間を描きつつ、「最初から何もしなければよかった」という究極にメソメソしたセリフもあって、見応えのある回でしたけど、11話はどんな気持ちで演じてましたか?
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畠中「なんか、俺自身も劣等感の塊だったりするんですよ。もちろん好きな面もあるし、こういうことなら頑張れる! っていう部分もあるけど、劣等感の塊でもあるので、その部分を本気で出せました。わりと、本音で演じられる場所だったというか。だからこそ、後半で自分を奮い立たせるところでは、気持ちをしっかり持たなきゃいけなかったですし。なので、あのときは思い切り自分の、本音じゃないですけど、共感できる部分を出しましたね。アフレコでは、(来栖役の)増田さんは端に座ってたんですけど、その距離感を詰めてきてぶん殴ってもらわないと、って思ったので、現場ではぶん殴られるくらいメソメソしようって思いながらやってました。ほんとに殴りたいと思わせないとあの緊迫感が出ないから、現場から変えていかないと、って思ってました」
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- ――再三、生駒=荒木哲郎という話をしてきましたけど、畠中さんもやっぱり同じところを持っている人なんだな、という気がしますよね。大河内さんから見て、おふたりは生駒に近いなって感じる部分はありますか?
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大河内「そうですね。僕は心配しているお母さん、みたいな立ち位置です(笑)。『ここでこう言っとけばいいのに』みたいな。『ここはゴメンって言っちゃってもよかったんじゃないの?』とか」
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畠中「いや~、でも11話のセリフはすごかったですよ」
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大河内「それは荒木さんと一緒に書いてるんですよ。僕はスタジオに入って書いていて、荒木さんとは生駒についていろいろ話をするんだけど、11話のときも、脚本には書いて実際には映像になってないんだけど、生駒は自分のことを責めて、責めて、今度はまわりのことを責め始めるんですよね。『俺はなんてダメなヤツなんだ』っていうところから、『でもどうせ、無名だって俺のことなんか好きじゃなかったんじゃないか』ってなっていく。そういう、ガッカリするところがあって。そういうヤツなのも、生駒のすごくいいところというか」
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荒木「11話は、『走れメロス』のメロスの気持ちがくじけているところがすごく好きだったから、それをやりたかったんですよ。自分が疲れちゃって、自分を正当化するために、いつの間にかセリヌンティウスのことまで貶め始める。心の堕落、そこからの復活というのが、感動的だと思っていて。でも、11話のアフレコはすごくよかったですね。最初に畠中さんを見たときに、『もうこの人は大丈夫だな』って思ったんですよ。俺的にも勝負の回で、『この回が決まらなかったら何の意味もない』っていう回だったので、アフレコでいい声をもらわずに帰るわけにはいかなかったんですけど、スタジオに入っていったら、畠中さんの様子がこれから死ぬ人の感じで」
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畠中「そうですね(笑)」
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荒木「だから、プレッシャーをかけたりする必要もないかな、と思ったんですよ。何も言う必要がないなって」
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畠中「あのとき、次の台本がなかったから、生駒は死ぬんだと思ってたんですよ。この先どうなるのかわからないっていう状況で、台本を読んで『俺は死ぬんだ』って思ったので、死ぬ覚悟でブースの中に座っていて。だから千本木さんにも『ごめん、俺、死ぬわ』って言って」
- (会場笑)
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畠中「『死ぬの!?』みたいな感じで、微妙な空気感のままアフレコに突入したので(笑)、そういう緊迫感もありつつ。すごい空気でしたね、11話は」
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荒木「なんか、近寄れない感じでしたね、畠中さんが」
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- ――それだけ強い覚悟を持って臨んだわけですね。
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畠中「そうですね、じゃないと演じられなかったと思います。1話のときとは違う――決意と覚悟の違いというか。腹にもっと大きい重石を乗せて、敵地に突っ込んでいかないと、と思ったんですよね」
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- ――そろそろお時間なので、ラストの質問です。お三方にとって『甲鉄城のカバネリ』はすごく大きな位置を占めていると思うんですが、今後のご自身にとって、どんな意味を持つ作品として残っていくと思いますか?
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大河内「対外的に言えば、代表作ですね。自分からすると、ちゃんと作品に愛と忠誠心を注げることを再確認した作品、という感じなのかな、と思います」
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畠中「すごくクサいというか、素面で聞くと恥ずかしい言葉かもしれないですけど、僕にとっては青春でした。ほんとに、自分の若さと、今しかできないものを詰め込んだ作品だと思います。だから、きっと粗もあったし、『どうなの?』って思うところもあったかもしれないけど、気持ちでいくっていうのがどういうことなのかを、そこに置いてこようと思った作品で。年齢が上がって、技術に頼る芝居をするようになってしまうことがあったとして、そのときに観返して、『お前、もう一回これやれよ。もう一回この熱さ取り戻してみろよ』ってぶん殴ってやりたいというか、そうやっていつでも巻き戻してくれるというか。『カバネリ』は、消化されるものじゃなく、残っていく作品だと思います」
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- ――では最後、監督お願いします。
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荒木「あの、畠中さんの後に言うとアホみたいだけど、青春だよなあ」
- (会場笑)
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荒木「でも、とにかくあがいた、自分はしっかりあがいたっていうものが残っていて。俺にとって大きかったのは、『俺のキャラクターへの愛情は、お客さんにも伝わるんだな』って思えたので、それはすごく手応えがありましたね。やっぱり間違ってなかったっていうか。まず俺がキャラクターを愛することが大事だなっていうことを教えてくれた作品であり、青春でした」
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※黒血漿=この日販売されたスペシャルドリンク。黒生ビールをレッドブルで割っている。